筑波大学デジタルデモクラシーと
政治的不平等(DDPI)プロジェクト

筑波大学プレ戦略イニシアティブ令和3年度採択課題
「格差・不平等の政策的解決に向けた実証社会科学研究拠点」

 国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の中核的理念は「誰も取り残さない」社会です。そのためには、個々人の諸権利が平等に保障されるだけでなく、実質的に人々の声が平等に政治に反映され、必要なサービスを受けられる必要があります。

 しかしながら、現実には、所得や財産、雇用といった経済的側面ばかりでなく、教育、健康・医療、情報アクセス、地域といった側面、あるいはジェンダー、外国人、障害者などに起因する格差や不平等がみられます。そして、これらの問題に対しては、社会保障、人材投資やエンパワーメント、人権擁護、啓蒙や理解促進などの政策を通して解決が図られる必要がありますが、現状では十分な政策的対応がとられているわけではありません。

 それどころか、政治学の実証研究に基づくと、むしろ社会的に優位な立場にある人々ほど政治に関与し、政策による応答を得ていることが知られています。このように政策の形成プロセスが不平等だとしたら、政治によってかえって格差が拡大し、社会的排除を助長する恐れすらあるでしょう。したがって、多様な人々の声が政治に反映され、より公正に政策が形成されるためのシステムを構築する必要があります(図1)。これにより、「誰も取り残さない」から進んで、多様性(ダイバーシティ)に配慮した1人1人の幸福(ウェルビーイング)を追求する社会を目指していくことができます。

 そのためには、①どのような社会状態が望ましいのかという規範的考察をふまえたうえで、②経済、社会、情報、教育、医療等の各分野にわたる不平等の現状を把握し、③異なる立場からどのような要求が政治に届けられ、実際の政策形成へと結びついたのか、④さらに結果として経済・社会的不平等がどのように変容したのかを吟味するための総合的な研究プロジェクトを立ち上げる必要があると考えるに至りました。

 一言に平等あるいは公正といっても、皆がまったく等しい状態が望ましいのか、業績や努力に応じて報酬が得られる方がよいのか、困窮している人に多く配分される方がよいのか、様々な考え方があります。これについて、まずはどのような原理に基づくのが望ましいのかという規範的考察する必要があります。そのうえで、様々な分野における実態や人々が望む原理についての実証的な分析をふまえて、政策に生かしていくことが求められます。

 さらに、政策形成プロセスにおいても、人々の声をどのように政治に取り入れるのか、どうすれば公正な政策が可能なのかについて、多様な分野の実態をふまえつつ、政治学・政策科学による政治過程の総合的分析が必要となります。

 また、近年のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の急進化をふまえるならば、以上の問題に対して、デジタル技術を駆使したデジタル民主主義の可能性を探ることも重要な課題です。政策に関するデータや世論調査結果などを公開し、多くの人々が政治について考えたり、選挙での投票に役立てたりできるように整備することが考えられます。また、より進んで、電子投票など技術を用いた政治参加や民意の集約の可能性も検討していきます。

 本プロジェクトは、筑波大学人文社会系を中心に格差・不平等にかかわる多様な分野の研究の共通インフラを整備し、相互の連携を促進するための拠点形成を目指します。そのために、①学内外および海外研究者とのネットワーク構築、②多様な研究分野との交流と融合、③研究成果の国内外への迅速な発信、④研究資料、データのアーカイブ化と公開といった活動を行っていきます。

 

代表者:山本英弘