筑波大学デジタルデモクラシーと
政治的不平等(DDPI)プロジェクト

研究内容

格差・不平等の政策的解決に向けた実証社会科学研究拠点について

 国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の中核的理念は「誰も取り残さない」社会です。そのためには、個々人の政治的諸権利が平等に保障されるだけでなく、実質的に人々の声が平等に政治に反映され、必要なサービスを受けられる必要があります。
 しかしながら、現実には、経済的・社会的不平等および貧困の拡大が問題視されています。また、社会的弱者の声が政治に届いておらず、そのために十分な対応がなされていないともいえます。したがって、多様な分野における不平等の実態を把握したうえで、どのような政策的対応がなされているのか、そこにはどのような問題があるのかを規範的、実証的に明らかにする研究が急務となります。さらには、近年、著しいデジタル・トランスフォーメーション(DX)がこのような政策プロセスにどのように活動できるのかについても検討する必要があるでしょう。
 このプロジェクトでは、上記の問題意識をもちつつ、筑波大学人文社会系を中心に、日本政府のSDGsアクションプランでも取り上げられている諸課題(デジタルデバイド、ダイバーシティ、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ等)に関連する各分野の研究とそれに関する政策形成システム研究の共通インフラを整備し、相互の連携を促進するための研究拠点形成を目指します。
 そのために、1)学内外、国内外の研究者のネットワーク構築、2)多様な研究分野との交流と融合、3)研究成果の国内外への迅速な発信、4)研究資料の保存・アーカイブ化、5)研究成果の教育への還元といった活動を行います。

研究プロジェクト

政治的エリートと市民の平等観と政策形成に関する調査プロジェクト

前身の「政治的エリートの平等観調査プロジェクト」を発展させ、1)市民およびエリートのそれぞれについて、平等認知(経済的、文化的各側面)、公正観(分配、手続き/衡平、平等、必要)、イデオロギーといった要因からどのように平等に対する志向性や政策選好といった価値が形成されるのか、そのメカニズムの解明を目指している。また、2)実際の政策形成において、各アクターの平等価値がどのように反映されているのかを明らかにする。具体的な政策過程において、平等観を背景にどのような協調/対立構造がみられるのか、アクター間の相互作用を経てそれがどのように実際の政策へと帰結するのかを明らかにする。
そのために、研究グループで実施したエリート調査の成果をふまえ、通常のサーベイ調査における質問項目の分析とともに、仮想的状況を設定したサーベイ実験等を導入し、どのような要因が各アクターの平等の価値観に影響を及ぼすのかを精緻に解明する。さらに平等観が政策形成にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにするために、平等をめぐる政策ネットワーク調査や政策過程における言説分析を行う。これらの一連の研究を総合し、現代日本の政策形成における平等という価値の位置づけを明確にすることを目指す。

プロジェクトサイト:https://ddpi.icrhs.tsukuba.ac.jp/ddpi-02/

研究助成

  • 日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究(A)(一般))「現代日本における平等をめぐる政策観の実証研究:市民とエリートとの相互作用」(研究課題番号22H00046 研究代表者 竹中佳彦 筑波大学教授)

機会と結果の政治的不平等に関する調査プロジェクト

近年、経済的・社会的不平等の拡大が問題視され、これらへの政治的対応が求められている。しかし、政治への参加や政策による応答に格差があるとしたら、かえって不平等を助長するおそれがある。そこで本研究では、政治参加と政策応答という点から政治的不平等の実態を捉え、さらに経済的・社会的不平等と関連付けながら政治的不平等の生成メカニズムを解明する。具体的には、下記の課題に取り組む。

  1. 個人と団体に対する大規模質問紙調査に基づいて、収入、職業、学歴、性別、年齢、エスニシティなどによる政治参加の不平等を把握する。
  2. 質問紙調査による個人や団体の政策選好と策定された政策との照合によって政策応答における不平等を把握する。
  3. 具体的な政策過程における争点と各アクター間の相互関係の推移を明示化することで、参加と応答をつなぐプロセスを把握する。これらをもとに、参加と応答の間を媒介するメカニズムを明確化した政治的不平等の生成モデルを構築する。

プロジェクトサイト:https://ddpi.icrhs.tsukuba.ac.jp/ddpi-01/

研究助成

  • 2020-24年基盤研究(A)「機会と結果の政治的不平等に関する総合的実証研究:政治的不平等生成メカニズムの解明」代表:山本英弘(20H00061)

政治的エリートの平等観調査プロジェクト

グローバル化と「格差社会」の進展、統治機構改革は、エリートの「平等観」や政策選好をどのように変化させ、政策決定の影響力構造をどのようなものに変容させたであろうか。本研究は、1980年の「エリートの平等観」調査に倣った調査を実施し、以下の諸点を明らかにしようとするものである。

  1. エリート・対抗エリートの「平等観」や政策選好がどのように変化したか。
  2. エリート・対抗エリートが、何を考え、市民から表出される利益をどのぐらい政策に反映させているのか。
  3. 現代日本のエリートと対抗エリートがどのようなものであり、政策決定に対する影響力構造や政策ネットワークがどのように変容したのか。

研究助成

  • 2017-21年度科学研究費基盤研究(A)「グローバル時代のエリートと対抗エリートの平等観と政策ネットワークの変容」代表:竹中佳彦(17H00966)

地方議会における女性議員と政策に関する調査プロジェクト

ジェンダーをめぐる不平等の中でも、とりわけ対処が遅れているのが政治における不平等である。とりわけ、日本においては女性議員の比率が先進国では最低水準であり、ジェンダー・ギャップ指数が低位にある大きな要因の1つとなっている。そのため、学術的にも政策的にも女性議員の増加は焦眉の課題であり、女性議員がなぜ増えないのか、いかにすれば増えるのかについての研究が蓄積されている。しかし、「女性議員が増えたら、何が変わるのか」に取り組んだ研究は管見の限りあまりみられない。そこで本研究では女性議員の比率とジェンダーや保育・介護・生活関連政策(以下、ジェンダー関連政策)との関係を実証的に検討し、「女性議員が増えたら、何が変わるのか」を明らかにすることを目的とする。

研究助成

  • 2020年度公益財団法人旭硝子財団「サステイナブルな未来への研究助成」プログラム「女性議員が増えると何が変わるのか?-市区町村議会における実証的検討-」

人権の基礎としての人間性に関する研究

「我々のほとんどがすでに道徳的確信をもって受け入れている政治的・法的規範に人権がある。しかし、人権享受の非対称性は、世界における諸々の人権遵守状況を見るならすでに明らかである。本研究の目的は、「人権が人間性に依拠することはどのように理解されるべきか」の問いに対し、回答を与えること、そしてその回答をもとに適切な国際人権政策を描き出すことにある。

研究助成

  • 2021-26年度科学研究費補助金若手研究「人権の基礎としての人間性に関する研究:福利・地位・人権保障主体」

人の国際的な移動と移住に関する学際的研究

2010年以降に限っても、海外では欧州難民危機、ブレキジット、移民キャラバン、日本では入管法改正など、人の国際移動に関連するニュースが頻繁に報道されている。新型コロナウイルスの感染拡大により近年は抑制されているが、移民を、21世紀のメガトレンドのひとつと指摘する研究者もいるほどである。人はなぜ、いかに国境を越えるのか。人の越境は、国際社会の秩序や国内政治の動向にいかなる影響を及ぼすのか。そして、人の移動の自由と社会の秩序は両立しうるのか。これらの問いに対して、実証的かつ理論的に応答する。 詳しくはこちら https://www.globalmigration-net.com/

社会的マイノリティの政治的影響力に関する研究

社会的なマイノリティとしての障害者に注目し、障害者がどのような条件下で政治的な影響力を行使し、政策を変化させ得るのかを明らかにすることを目的に研究をしている。障害者が関わる政策分野は、近年労働力として大きな注目を集める女性がかかわる政策分野とは対照的に、政治家や官僚といった政治エリートの中で内発的な変化が生じにくい点に特徴がある。そのため、政策の変化にあたっては、とくに障害のある有権者や障害者団体による政治への参加や働きかけが重要であると考え、投票、陳情、デモへの参加などの活動に注目をして調査・研究を行っている。また、近年は障害のある地方議員や国会議員に関する調査も行った。

研究助成

  • 2020-24年若手研究「マイノリティ団体が政治的影響力を行使する条件」代表:大倉 沙江(20K13399)

社会・健康格差に関する研究

健康格差は社会格差により生み出され、それを助長していることが多くの先行研究から明らかとなっている。一方で、適切な社会・経済政策が適切な時期に実施されることにより健康格差が緩和される可能性も指摘されている。本研究では、特に出生時の健康格差に着目し、新生児~幼児期の健康状態の帰結および、その規定要因を明らかにすること、そして望ましい政策介入のための議論に必要な資料を提供することを目的としている。

研究助成

  • 2019 — 2022 日本学術振興会/若手研究 妊産婦への政策介入と母親の健康・次世代へのインパクト〜自然実験を用いた検証 代表:松島 みどり